リアル俺ごっこ「ヒーローショー」

空虚で怠惰な毎日を送る主人公・ユウキ。M−1グランプリで優勝して1000万円を獲得する、という肥大した自意識だけを持つ何もない人間。何もないから衝動的な感情に正直。何もないからテキトーに生きて、何もないから妄想好き。漫才コンビを組んでいた友人がやっているヒーローショーのアルバイトも何となく始めてみる。たどり着いたのは、報復が報復を呼ぶ馬鹿馬鹿しい世界。そこで彼はどう折り合いをつければいいのかわからない絶望感を背負うことに・・・。

自衛隊で今は配管工の主人公・勇気。その腕っぷしの良さは周囲からヒーロー扱いされるほど。でも本当は「なりたい自分」になれない。手本となる人がいなかったから、その方法がわからない。そのくせ腕っぷしだけはあるから自暴自棄になったら止まらない。とてもじゃないけどヒーローだなんて呼べない人間。暴力へと暴走していく姿は悲劇を超えて喜劇にすら・・・。

『ヒーローショー』はリアルに彩られた若者たちの物語で、終始何かを手繰り寄せるような、何かにすがるような思いで観てしまったぼくは、鑑賞後に10時間くらいは座っていたんじゃないかと思うほどの疲れを感じる羽目に。これは生々しい暴力描写のせいではなくて、丁寧に描かれる人間心理のせい。しかもぼくの目には暴力というより暴力にかこつけた「社会の圧力」に見えていたから余計です。

同じ名前の2人の主人公ユウキと勇気は、お互いのことをあんまり見たくはない、できれば目を背けていたい存在として見ていたんじゃないかなあ。たぶん、勇気は自衛隊に入る前はユウキみたいな奴だったんだよ。けど片親っていう不条理が彼を1コマだけ先へ進めさせた。だからユウキを見てると振り返ってるみたいでもどかしいんだよ。逆にユウキにとって勇気は自分にはないものを持つ人。見ているだけで自分の不可能性を感じちゃうから冗談半分でしか向き合えないんだよ。2人が理解を深め合うことが映画では結局無くって、結局は自分の道に戻っていっちゃう。ぼくはそれが一番悲しかった。だって2人と同じような感情がぼくの中にはあるから。やっぱり映画の中には幸せとか楽しいコトを求めたいじゃんかあ。最後の曲なんてもう言葉にならないですよ。本当に身につまされすぎて・・・。なんだか本当に疲れちゃいました。この感想文だって何回書き直したかわかんない。結局よくわかんなくなっちゃったけどさ。

見せ付けられるヒーロー不在。受け止めきれないからこそ観るべきでだからこそ見たくもない。イヤってくらい自分自身に迫ってくる映画でありました。(★★★★)