あの頃ジェファーソン・エアプレインと『シリアスマン』

コーエン兄弟監督作品。主人公に降りかかるわけのわからない出来事が可笑しくて、また、それに動じまくる主人公の姿がとっても人間くさい素晴らしい作品でした!

印象的だったのは、数々の不運に見舞われる主人公ラリー(asマイケル・スタールバーグ)が、それまでに起きた出来事の「経緯」を説明しようとあくせくとする場面。その場面とはときに全くの他人との電話であったり、ときにユダヤ系直属の指導員ラビとの面談であったり、とにかく、ことあるごとに主人公は誰かに教え/助けを乞う。そのたびに「ボクは何もやっていない!」と主張する彼だが、屈託がなさそうにきこえて実はありまくりのどうも返答に困るものにしかきこえない。

面白いのはその場面にある強烈な「めんどくささ」である。何故、起きた出来事に自分はこうも苛まれているのか?そして、何故、その出来事は起きてしまったのか?これの説明がまったくできないくらい彼は参っている。警察官の事情聴取をうける場面では「いや、あの、え、うん、まあ、長い話なんだよ!」といって自粛を促す始末。その可笑しくて滑稽な姿が、笑い飛ばすしかないぞ!という域まで描けているあたり名人芸ではあるけれど、その姿から見えてくるのはコーエン兄弟自身なのだからびっくり。

映画ではコーエン兄弟がある種の「所信表明」を行なったように思う。「まじめなひと=シリアスマン」であったがゆえに「ひどいおもいをする男=シリアスマン」となってしまう主人公のめんどくささを画像のような俯瞰視点で人間くさく描き出すコーエン兄弟こそは生真面目なシリアスマンであり、また、シリアスな事態を避けるため「郷に入っては郷に従え」を実践してみせるラストの可笑しくて絶句するほどの容赦のなさは、これからも変わらぬ作風へのコーエン兄弟の意思表示だとボクには思えました。

テーマソング「ジェファーソン・エアプレイン/somebody to love」がたいへんかっちょよい。困ったら誰かを愛しなさい!って人間くさくてまた素敵。