無重力よ想いをのせて『ゼロ・グラビティ』

ゼロ・グラビティ』感想。

「宇宙なんか絶対行きたくねぇ!」と思ったし、「あぁ、綺麗だなぁ」とも思いました。主人公ストーン博士(asサンドラ・ブロック)の「どうすればいいの?!」というセリフに見事シンクロしてしまったボクは、そのあとの「ふざけんな!!」にも完全同意。まんまと良いお客さんです。この映画のパニック感っていうのは、対象がハッキリとしたうえで感じる「恐怖」ではなくて、そこに至る前の「混乱」なんですね。何にどう気を付けたらいいのかわからないスリルに心躍りました。

身動きがきかない、物を手に取れない、電波に頼らないと会話ができない。あれもこれも思い通りにいかなくて焦れったい世界が舞台です。宇宙のルールは人間にとってかくも非情なのです。そんな中で、「諦めることを学べ」「常に方法はある」と、適切な判断能力を発揮するベテラン宇宙飛行士マット(asジョージ・クルーニー)が超イイです。危機的状況下にあっても「ガンジス側に差す〜」と言う情熱を忘れない姿もたいへんにカッコよい。あのシーンには、時が止まったような感覚をおぼえて宇宙の良いところを味わわせてもらえました。そんなマットがそばにいると安心感ハンパないです。ボクんなかで「上司にしたい男宇宙一」に輝きましたね。

画面上には、人間も含めたさまざまな物体が浮遊しますが、特に目に付いたのは「ペン」です。それを手に取ったりする場面はなかったんですけれど、なかなかの本数が宙を舞ってたと思います。かつて、人類は宇宙用のペンを開発しました。それは、不可能を可能にしようとするヒューマニズムですよね。1:30飛び続ける破片と同じように宇宙に放り出された人間はそのルールに屈服して90分間さまよい続けるしかないのか。そうではないだろう!というのがボクにとってこの映画の感動ポイントです。

どんな困難にあっても、人間は夢を見ること、何かを思い描くことができます。実際に宇宙空間で撮影できなくとも、知恵と技術と情熱をもってすれば、観客に宇宙を体感してもらうことができるんです。ラスト。脱出ポッドが大気圏に突入。どうにかこうにか帰還できそう。そこで、ストーン博士は、マットと娘の2人に「別れ」を告げるのではなく、どこかへ行ってしまったマットに娘への「伝言」を頼むんですね。この違いに胸打たれました。音が伝わらない宇宙空間であっても、ひとの「愛」を届けることはできる。思い描いた何かを実現させる達成感と想いを伝えることの素晴らしさがこの映画には満ち満ちておりました。それはつまり映像で物語るものである映画のパワーそのものなんじゃないでしょうか。ハイ。大傑作!今年最高の1本!おわり