「フロスト×ニクソン」

第37代アメリカ大統領リチャード・ニクソンに、人気司会者デビッド・フロストが行った突撃インタビュー番組を映画化。番組はアメリカのニュース番組史上最高視聴率を記録したらしい。もちろんそんな番組の存在は、この映画を知るまで知らなかったし、ぶっちゃけニクソンのこともぼんやりとしか知らない。

まず、ニクソンという男から感じたのは、人間の滑稽さが詰まっているということ。ホワイトハウスを見つめる抜け殻のような表情、フロストという好敵手を得て再び意気揚々とする姿、収録という対決時も書類などの過去を顧みず、自分の感性だけを信じて邁進する姿。ニクソンってなんて言うか「天性の怪物」という感じがして、ものすごーく面白い人間なんだな、と思った。それはもちろん演じたフランク・ランジェラのパーフェクトっぷりのおかげだ。

次にフロスト。プレイボーイ生活を謳歌し有頂天になっていたときに、目に飛び込んだニクソン失脚のニュース。更なる成功を目指した彼は、ニクソンへの突撃インタビューを画策する。「大した才能は無い」と評されていたとおり、彼はラッキーな人間だ。ニクソンと同じ時代に生まれたことさえもラッキーだ。しかし、当然運だけで太刀打ちできる相手ではなく痛い目に遭う。それでも、ニクソンの孤独が生んだチャンスが転がり込むあたりやはりラッキー。強運の持ち主であると同時に、勤勉で努力家な一面も見せる。昔はあーゆー人だったのかもね。演じたマイケル・シーンニクソンの饒舌っぷりに面食らった表情が最高だった。普通はああなる。

鑑賞後に知った面白い逸話がニクソンvsケネディの討論番組。テレビが発揮できる印象操作の力は凄いわ。最後のアップは完全勝利の瞬間なんだなー。「善行である6割に対して敬意を忘れるな」って言ってたけど、テレビにはその敬意をも薄れさせる力があるワケで。その力に屈してる層が、水嶋ヒロ絢香の結婚に憤慨しちゃってるのかもね。

登場人物たちの面白味と、会話だけで興奮させる手堅い演出。これだよ、これ!と思わず唸ってしまう傑作でございました。(★★★★)