「チェイサー」

実際にあった事件をモチーフにしたらしい韓国映画韓国映画を劇場で観るなんて、たぶん「グエムル」以来だけど、なんかこうひさびさに胸につっかえる映画を観たわ。それこそ心に杭を打たれたかのようなこの心苦しさ。実世界ではなかなか味わえない絶望感を見事に見せつけてくれた。韓国映画は本当にストレートで陰湿でセンセーショナルで執拗だ。この懐の深さは日本映画界には無いわな。

市長保護で失態を演じた警察が、名誉挽回のため未解決の殺人事件を解決しようとある青年を逮捕する。警察はでっち上げのつもりだったが、その青年は本当にその殺人事件の犯人だったってのが面白い。そして逮捕のきっかけを作ったのが、行方不明の売春婦を探していた元締めってのも面白い。それだけに最後の最後にヨンミンが「本性を現す」という構成にしてほしかったなぁ。まぁ無い物ねだりですね。

前半、「売ったんだろ!?」とヨンミンにギャーギャー問いただし、事あるごとに殴る蹴るジュンホの頭の中は「金」。殴る蹴るのだって自分が損したことへの腹いせだ。このジュンホの心情が、娘の涙(無音なのが素晴らしい)や真相に近づくにつれて「金」から「罪」へと変化していくのがめちゃくちゃ面白い。クライムサスペンスとしても上質だったけど、一番良かったのはこのジュンホの心理描写。もちろん役者陣がイイのもあるけど脚本がとにかく秀逸。

後半、罪悪感からジュンホは手当たり次第に売春経営者を脅しヨンミンの情報を探す。逮捕されても決死に脱走を図る。汗だくになりながら街を走り回る。どうしようもないダメ人間だったジュンホが必死に「救い」を求める執念が執拗に描かれる。そして「ミノタウロ対テキサスの暴れ馬」を彷彿とさせる泥臭い決闘。トンカチで「救い」を打ち砕く決着。伝言を聞いたジュンホの姿はあまりにセンセーショナルだった。これは監督の手腕だろう。すげーわ。

似たテイストの「殺人の追憶」「オールド・ボーイ」には個人的に劣るものの、とてもデビュー作とは思えない傑作。また追いかけないといけない監督が増えてしまいました。(★★★★)