「劔岳 点の記」

「ディア・ドクター」の前に流れた予告編たちが、「火天の城」「ゼロの焦点」「沈まぬ太陽」と何やら古風な作品ばかりで、今年はこういう感じなんだと思い、ご老体に囲まれながら観て参りました。鑑賞後、直帰のつもりだったんだけど、無性に「米」が食いたくなってしまったので、昼時の定食屋に駆け込み、今度は中年男性に囲まれてごはん・とん汁・肉じゃがを貪るように食べました。きっと、あの握り飯がうまそうだったからだな。なんとか汁もよかった。けど芋はいいや。

さて、感想なわけだけど、うーん、これは突っつき始めると雪崩のようにボロがでてくる映画だ。ちょっと突っついてみると、人物描写が香川照之以外あまりに甘すぎるし、宮崎あおい役所広司は平凡な役回りで見応えない。仲村トオルに至っては、物語上重要な人物のはずが、やたら簡略化されてしまっている。山を舞台にしている場面は良いんだけど、それ以外の屋内場面だと一気にクオリティーが落ちてしまってる。っていうか香川照之がいないときは基本的にあまり面白くない。スローやオーバーラップ、BGMなどの小細工はほとんど失敗。終盤のメッセージも蛇足。あーゆーのは感じ取ればいいこと。と、ほとんど書いちゃったけど、俺はこの映画、好きだ。正確に言うと好きな「邦画」だった。

まず、宣伝でも言われているとおり、この映画を撮ることはまさに「苦行」だ。そうとしか思えない。小さな子供が高い所にいるのを見ているとやたら心配になるけど、大人でも見ていて心配になる場所はあるんだなぁ、と痛感した。劇中でも言われているとおり「自然の厳しさと美しさ」を映し出すことに終始一貫していて、思わず言葉を失ってしまうほどの美しいシーンがいくつもあった。逆にこれは残念なところで、厳しさのほうが若干弱かった。雪で右も左もわからなくなったり、天幕が飛ばされそうになったりと露骨すぎるし、助けに来るのも早すぎてちょっと緊張感がない。

俺が好きになったのはこの映画が「苦行」であるところ。「なんで山に登るんですか?」という台詞が「なんで映画を撮るんですか?」に聞こえてしまったんだわ。毎年毎年TV屋の映画もどきが制作され、それが空前の大ヒットとなる。いい加減「-卒業-」したら?と本当に本当に呆れ果てるが、これからもっとエスカレートしそうだ、、、。俺にはこの映画が、そんな屍の山がそびえ立つ邦画界への嘆きに聞こえてしまったんだわ。ただ、どんなに転げ落ちても「大丈夫」と言って、山登りを再開するあたりは、まだまだ見捨ててはいないらしい。と、まぁ、この切り口で考えるとなんとなく勘違いのような気もするけど、今、僕はとてもきらめいてときめいてるので考えません。

この映画が記した点は線の始まりだった、と、いつの日か思えたらいいんだけどなぁ。(★★★)