「96時間」
上半期があまりに傑作揃いだったせいか、下半期の映画にはどうも手放しで満足できていなかった。個人的にはどれもこれも鑑賞前から興奮できるようなものではなくて、実際観てみても予想を上回る場面がない、良い意味で期待を裏切ることがない、怒り狂うような不満もなければ再び味わいたくなる充足感もない、という何とも平凡な作品に収まっていた。いつしか作品を観るためというよりも、劇場に足を運ぶためという意味合いが強くなっていき、これを健全な生活を送っている友人に話すと「異常」だの「頭おかしい」だのと言われるわけですが、全くもってその通りだと思う。ぼくは「異常」なことが大好きで、「頭おかしい」奴をこよなく愛する男なのだ。
リーアム・ニーソンと言えば、ぼくの中ではそのしなやかな体躯と思わず聞き入ってしまう声色、そして時折見せる優しい笑顔がたまらなく素敵な「おじさま」とインプットされている。その彼が本作で扮するのは元工作員で娘を愛する父親。国に尽くしているあいだに家庭生活は破綻し離婚。愛娘はもう17歳になる。彼女の誕生祝いとしてカラオケレコーダーをプレゼントするが5歳の少女ならいざ知らず、愛娘は継父に贈られた馬へと走り去っていく。工作活動のために手に入れた数々の「能力」は愛するがゆえの用心深さに繋がり過保護となってしまう。
そんな自業自得のちっぽけな物語を2メートル近い体躯に背負ったブライアン・ミルズという男。ぼくは彼に心底同情してしまった。なんとかして「娘を取り戻す方法はないのか…」と。そしてこの映画は計ったかのようにその「チャンス」を与えてくれる。さながら「ホステル」のような手口で連れ去られる娘。どう見ても異常な過保護だった心配事が現実に起こったのだ!そこでブライアンは今まで役に立たなかった「能力」を遺憾なく発揮する、、、。この展開に最近の映画鑑賞では消化不良ばかり起こしていたぼくは大興奮!心躍ってしまった!
犯人を捕まえるやいなや修羅となり、容赦なく拷問し問いただす。そんな「お前たちを震え上がらせる能力」を用いながら、敵をぶち殺しまくるブライアン。ただただ娘の元へ邁進していくその姿がたまらなくカッコイイ!度重なる違法行為もその根拠が「愛」ならば、映画のなかではもちろん合法なのだ。そして見事娘を取り戻したのち、ひょんなことから得たつてで娘に喜んでもらえるプレゼントを贈る。今まで役に立たなかったはずの「能力」が思わぬ形で昇華した微笑ましいラストだ。しかし映画はその中を映さずに「閉め出す」ところで幕を閉じる。これが実に素晴らしい!
夏のタイムリミット寸前に観れた燃えるような熱い映画。世の頑張るお父さんたちへ、May the force be with you.(★★★★)