「BALLAD 名もなき恋のうた」
ぼくがクレしんシリーズの中で一番好きなのは「ヘンダーランド」。あれほど笑わされた映画はないなぁ。それに次いで「オトナ帝国」「嵐を呼ぶジャングル」「ブタのヒヅメ」なんかが好きなんだけども、本作の原案となった「戦国大合戦」ももちろん大好きな作品ではある。あるんだけど上記の4作品に比べるとちょっと変わった感じがする。それは平成と天正の緩衝材として、しんのすけとその一族のキャラクター性があるからだと思う。まぁ最後には現代・過去どちらでもない「野原一家」がファイヤーしてくれるので最高には違いないんだけど、シリーズを観て育ってきたぼくはどうしても序盤の野原一家の描き方に戸惑いを覚えてしまう。
「クレしん」のオススメレビューなんかを読むと「アニメだと思って侮るなかれ」みたいなくだりがよくあるけれど、「戦国大合戦」と「オトナ帝国」は決して「アニメなのに深い作品」じゃないと思う。あの2作はクレしんならではの面白味と原恵一の作家性が見事に調和した傑作映画であって、「クレヨンしんちゃん」というアニメはもはやアニメという言葉では括れない。ジブリのようなジャンルだと思う。じゃあそれを実写に置き換えることができるのか?となると当然それは無理だ。置き換えられるものはジャンルと呼べないから。
で、その無理をしてみたのがこの「BALLAD 名もなき恋のうた」だけど、予告編や無料DVDを観た時点で草なぎ剛、新垣結衣の演技は悪くなさそうだったし、合戦は真面目に描いてそうだったし、大沢たかおは小悪党がよく似合うなぁ、とまぁそれなりに楽しめそうな作品だとは思っていた。で、実際そうだったんだけど、まぁ「アッパレ!」とは言えないにしろ、できる限りのことはやったんじゃないかなぁ。企画発表のときに抱いた失意など微塵もなく十分楽しめる代物になっていたように思う。ただ「クレしん」という緩衝材を失っているためか「説教」に聞こえた場面があったし、原作ほどの深い感動は味わえなかった。
てか山崎貴監督は別にクレしんがやりたかったわけではなくて、戦国映画を現代に蘇らせようとしたわけだけど、それはとても良いことだと思うので応援したい。その辺りは「ALWAYS」よりずっと好感が持てる。けどこの映画は軽い。どうしようもなく軽い。「野原一家」が映画においてどれほど重みある素晴らしい要素だったのか思い知らされたなぁ。お互い「逃げ」ている真一と又兵衛という設定で、説教になりかけそうなところをメッセージにするあたりはいい。でも「なにかしたい!」という想いが写真撮影では、せっかく「いじめっ子をやっつける」という蛇足を省いた爽やかなラストが、最後の写メと写真を見たときに「所詮文明しかより所がないのか、、、」とぼくは絶望を味わってしまうんだなぁ。
クレしんをできる限り実写に置き換えてみたら、特段に良い面がない「名もなき映画」に。タイムトラベラー山崎貴監督、次はどこへいく。(★★★)