「エスター」

エスターはチョーカーがよく似合う女の子。少し太めの眉と力強い瞳が印象的でとても愛くるしい笑顔を見せてくれます。そんなエスターは絵を描くのが好き。下手ではないのですがまだまだお子さま。上手とは言えません。でも絵の中に物語性を込めていて想像力の豊かさがうかがえます。そんなエスターにピアノを教えてあげます。ラ、シ、ラ、ラ、シ、ラと弾かせますが何度も間違えてしまいます。でもセンスはありそうです。だって鍵盤を叩く指先がきちんとしているもの。将来有望な11歳の可憐な少女。みなしごエスターはわたしたちの目にそう映りました。

この映画の予告編をはじめて目撃したとき率直に「すげぇ面白そうだけど、見せすぎなんじゃ?」と思った。しかしあくまで予告編。エスターの演技は抜群で、何やらどえらいことをしでかしてくれそうだ!と久しぶりのホラー映画にわくわくしていた。映画が始まるとお決まりの演出でお決まりの夢オチがそつなく描かれ、物語が動き出す。ぼくはキャラメルポップコーンをむしゃむしゃしながら「はやくはじまんないかな〜」と既定路線である「惨劇」を心待ちにしていた。

そして、この映画は微笑ましいほど定番の展開でその期待に応えてくれる。あくまで予想の範囲内ではあるけれど、退屈することなく十分楽しめる出来映えだ。子供同士の心理戦には妙な危なっかしさがある。やっぱり夜長の季節にはこういう映画だよなぁ、なんて薄ら笑いを浮かべながら観ていると、なかなか心理描写に長けている事と伏線めいたものが綺麗に回収されている事に気づく。これはクライマックスの展開が楽しみだ!一体どんなハチャメチャバトルが待っているんだ!?とすっかり興奮してしまったぼくはそれまで呑気に頬張っていたキャラメルポップコーンを大急ぎで空かして、じっとその瞬間を待ち構えることにした。

しかし、この映画はぼくが抱いていた幼稚な期待のなんと遙か遙か上をいってしまう。刹那、目が点になり開いた口が塞がらない。それまでのほほんと観ていたスクリーン上の出来事がまったくもって信じられないのだ。思い返せば本当に驚愕したときというのは一瞬思考が停止してしまうのかもしれない。ぼくはそれを理解したとき、恥も外聞もなく「えええぇぇぇぇ…!!」と震え上がってしまった。薄ら笑いを浮かべていた表情もたぶん盛大に引きつっていただろう。もしキャラメルポップコーンが余っていたら喉に詰まらせて窒息死していたかもしれない。ここまで心も体もひっくり返されたのは久しぶり!

映画の表情が微笑ましい笑顔から、両親の性行為のようなおぞましい形相に豹変する。これがほんとの「子供だまし」。傑作!(★★★★)