「沈まぬ太陽」

これは力作!社会から逃げ続けているぼくのような人間にとっては、涙なくしては直視できない映画でした。ボロッボロッボロッボロッ泣いちまいましたねぇ。いやはや今年観た邦画のなかでは一番の骨太ドラマでした。冒頭の「墜ちた巨象」や引いて寄るの単調な画作り、時間の経過が早いので若返りメイクの安易さと老けメイクの無さが目立っていたりと、傑作とは呼べない綻びが多いのは確かだけど、この映画の屋台骨となった渡辺謙の熱演に深く感動させてもらいました。

山崎豊子の作品に触れたのは恥ずかしながらこれが初めてで、どんなお話なのか一切知らずに観たんだけど、労組で渡辺謙三浦友和のズレが明示されたとき「あ、この物語は面白いな」と確信めいた予感を感じました。さらに「まだご遺族と言うのは…」という本来真っ当であるはずなのに、あの極限状態においては「不自然」に聞こえてしまう台詞に恩地の人徳が垣間見え、「あ、この人、ちょっと凄いぞ」と一気に感情移入。少ない台詞で引き込まれる心地よさは映画ならではです。

そこからは沈んでいく物語にただただ圧倒され、202分があっという間に過ぎていきました。途中120分頃に10分間のインターバルがあったけど、その時点で体感では1時間程度。時間を確認して驚いたことに驚かされました!驚いたと言えば劇中での恩地の行動。常人なら簡単に折れてしまう状況下でも決して屈することなく「いちいち正しい」。けどそれは誰かが歩まなければ見えてこない道なんだなぁ。

映画は時代をうつす鏡。なんて言われることがあるけれど、古風な題材で今を見つめなおすきっかけにまで作り上げたこの映画に、それこそ「魂が震える」ような力強さを感じました。エンドロール後の「断り」が皮肉にも思えるほど現代社会を投射していて、航空会社の協力を得られなかったことが、逆に映画にとって「追い風」にもなっているんじゃないかと。とにかく打ちひしがれました。

暮れ泥む現代邦画界が放つ落陽のまぶしさに「今にしか興味がない」ぼくも背中を押された気がしました。(★★★★)