「母なる証明」

ほえる犬は噛まない』『殺人の追憶』『グエムル -漢江の怪物-』のポン・ジュノ監督最新作。上記の三作品は一見コメディ、サスペンス、パニックとそれぞれテイストが違うように見えるんだけど、実は人間をどこか「滑稽なもの」として描く目線が共通していて、そのどれもが大衆娯楽的な要素に寄りかかっていながら、どたまに飛び蹴りをぶちかましてくるような狂った作品なのだ。「真実味を帯びた狂気を嘘の正気で包み込む」。それがポン・ジュノの映画術なんだと思う。

本作の原題はストレートに『MOTHER』。これに邦題となる『母なる証明』だけども、珍しく含蓄あるひねりが利いていて実に悪くないと思う。ぼくは気に入っている。「実に悪くない」という中途半端な褒め方をせざるを得ないのは、映画の内容があまりにひねってるというかねじってるというか、、、見事に人間を丸裸にしたような感じなので、もはやタイトルはなんでもいい気がするから。「MOTHER」が一番収まりが良いけど、英語表記の韓国映画なんて日本じゃ通用しないよね。

さて、本編だけどさすがはポン・ジュノ。乗っけからやってくれている。母が息子のために頑張る映画だから相当強烈なキャラクターなんだろうと身構えていたけれど、まさかオープニングが「野原で踊るオバさん」だとは!苦笑させられながらも一気に映画に引き込まれてしまった。そこから鑑賞中に映画を反芻させられるような物語が展開され、登場人物たちの行動すべてに「裏付け」があることに何度も何度も唸らされることとなる。

ぼくはファーストシーンとラストシーンが繋がる映画が好きで、まさかとは思ったけどこの映画もそんな雰囲気が漂う場面があった。しかし、驚くべきはここで置いた「一拍」。このいちいち素晴らしい周到さがラストの信じられない名シーンを生み出していた。母が一線を越えたときには思わず力拳をつくってしまったけど、まだどこか予想の範囲内というか「まぁそうだろうな」なんて思ったけど、、、本当に凄い映画でありました。

人は誰しも「心のしこり」を抱えて生きている。それを騙し騙しほぐしながら、踊り狂っているのかもしれない。(★★★★☆)