「イングロリアス・バスターズ」

クエンティン・タランティーノ監督の最新作。監督自身が「オレの最高傑作だ!」と自負しているだけあって、とんでもない大傑作に仕上がっていた。タランティーノ作品ベスト3を選べといわれたら『パルプ・フィクション』『キル・ビル』『デス・プルーフ』と迷わず言えたけど、今後は悩むことになりそう。とにかくとんでもなく面白い。ナチス。今から半世紀ちょっと前に暴れていたドイツの独裁者ヒトラー率いる極悪政党だ。もはや説明不要の歴史上最も「イングロリアス(不名誉な、恥ずべき)」な奴ら。それゆえにこれまで色んな角度から「映画化」されてきた。

本作はそんな奴らを史実なんぞ無視して『バスターズ(ブッ殺す)』してしまおう!という最高に痛快な物語だ。本当にタランティーノは何が映画の娯楽要素として仕上がるのかよぉーくわかっている。逆に言えば何が無駄なのかもよぉーくわかっているので、あのダラダラとしたおしゃべりを見せ切ることができる。ただ、『イングロリアス・バスターズ』の無駄話には探り探りの心理戦が含まれているので、いつもの意味ありげなユルさではなく、絶妙な緊張感が生み出せていた。これはタランティーノ上手いなと。

「戦争映画」にはどちらかの片棒を担ぐような描き方や、その無益さ悲惨さに趣を置いたものが多いけど、鑑賞後にまず思ったのは「こんなにも不真面目に否定できるのか!」ということ。毒をもって毒を制す、といった感じで本当に見事だった。ナチスもバスターズも悪い奴らとして同等に描かれ、そのなかにタランティーノ作品を象徴するようなクリストフ・ヴァルツブラッド・ピットの2大キャラを置く、そして戦争が生んだ復讐の連鎖に飲まれていくヒロインにメラニー・ロラン(めちゃ可愛い!)がいる。ここまでは「戦争映画」にありそうな雰囲気だけど、ひとつだけ紛れもないタランティーノ印が入る。

ナチス親衛隊の魔の手から辛くも生き延びたヒロインが映画館を経営している」ことだ。伯母から譲り受けたのと彼女は言うが、映画をプロパガンダとして扱っていたナチス全盛期にユダヤ人が映画館を経営する、というのはかなりの壁があると思うんだけど、本作は「目的達成」のためにそんな壁はひょいと飛び越えてしまう。しかしワンスアポンアタイム…なのだからこれは了承しなければならない。その先に待つのは極上と言う他ない映画的エンターテインメントの極み。すべての悪を虚構のなかに閉じ込めてしまえ!

「映画による映画のための復讐劇」。映画ファンにとってこんなに「名誉」なことはない。最高!(★★★★★)