「カールじいさんの空飛ぶ家」

涙なしでは観られない予告編から大期待していたピクサー最新作。初日に3D吹替で観て見事に大号泣してしまい、久しぶりにみんなに観てもらいたい!と思えるくらい心が温まった。けどワンちゃんたちに追っ掛けられるあたりで大爆睡してしまったので、これはいかんということで本日2D字幕で2度目の鑑賞。ぼくは3D映像でよく言う「奥行きを意識した画作り」ってのがいまいちわからない遅れた人なのだけど、この作品のすごさはわかる。いやわからせてくれ。秘境の地を壮大にとらえたショットや空飛ぶ家が雲のなかに浮かぶシーンは文字どおり絶景。ほんとうに素晴らしかった!

映像美もさることながら、やっぱりピクサー作品。物語の奥深さがすごい。こんなの泣くに決まってるよ!と言いたくなる回想シーンは絶品。思い出すだけでもじわーっと涙がでてくる。さらにすごいのは各々の人間ドラマが味わい深いところ。すごいすごいばっかり言ってるけど、それもそのはずで、ぼくがこの映画を観て思い起こした作品たちが『グラン・トリノ』『ラピュタ』『スター・ウォーズ』というすごいラインナップなのだ。

なぜか『グラン・トリノ』のコワルスキーとほぼ同年齢のカールじいさん。妻を亡くし虚ろな毎日を送る彼はコワルスキーと同じように頑固者で同じようにイスに座りながら妻との思い出の郵便ポストを眺める。夢のような夫婦生活だったが、子宝にだけは恵まれなかったカールのもとに『グラン・トリノ』のタオよろしくラッセルがやってくる。そして始まる「夢物語」。っと、ここまでは涙腺に訴えかけるようなしんみりとした雰囲気なのだけど、『ラピュタ』を彷彿とさせる積乱雲から雰囲気が一変。ただここで物語が急転するだけではなく人間ドラマもより奥深くなっていく。これがほんとにすごい。

カールとエリーの冒険心に火を点けた存在である冒険家チャールズ・マンツ。彼は汚名返上を夢見て何十年も秘境の地をさまよっていた。しかし愛犬たちに発声機をつけてしまうほどの孤独に蝕まれ道を踏み外してしまう。これは決してムスカのような「悪」ではなく、夢に取り憑かれた者の「堕落」として描かれる。いわばカールの「ダークサイド」としてチャールズがいるわけだ。その証拠としてカールの出航時に何気なく描かれる周りへの「迷惑」つまり夢に陶酔する危うさと終盤の剣劇がある。そしてこれがエリーの想いを汲むことにつながり、カールとラッセルの物語へと集約される。とりあえず素晴らしい作品です!ピクサーさいこー!!

「あっぷあっぷ」なこんな時代にこそ、何か一つ変えてみよう。きっとそこには冒険が待っている!合言葉はがーがーがおー!がーがーがおー!!であります。(★★★★★)