これぞ映画の奇跡「ミツバチのささやき」

年始1本目は名作と謳われている作品がいいなぁ、と思っていたので、奮発して買ったくせに放置していたビクトル・エリセDVD-BOXを引っ張りだしました。しかし、ちょっとこれはすごいものを観てしまったなぁ。なにがすごいってまず映像。ちょー綺麗でした。いや綺麗とはちょっと違うな。時代設定はスペイン内戦下なので暗い雰囲気はあるんですけど、観ていてすごく和むというか安らぐというか、とても穏やかな気持ちにさせられて眠くなってしまうほどでした。てか1回目は気持ち良く眠ってしまったんですけど(笑)無事ぜんぶ観たので、印象的だったとこをかなり興奮そして混乱しながら書こうかと。

映画がはじまるとまず子供の描いた絵がいくつか映されます。で、これがこの映画がなんたるかを物語ってもいると思うんですが、いやはやいきなり和ませてくれます。つぎに「映画の缶詰めだ!」というワクワク展開になり、どことなく『ニュー・シネマ・パラダイス』的な感動を予想させます。あ、ぼくこの映画についてなんも知りませんでした。頭にあったのは『パンズ・ラビリンス』の元ネタ?らしい作品ってだけです。本編に戻ると、それぞれの心情を示す「蜂社会」や「戦争」といったモノもでてきて、なにやら一筋縄じゃないかんじがでてきます。ここからは全編目を見張るシーンばかりで、時折3っの扉を開けたりするところで眉をひそめながらも、ほんと口開けながら見入ってしまいました。

セリフがほとんどないにも関わらず、伝えたい描きたい「物語」が確実に進行していきます。それでいていわゆる「劇的」な展開はないという不思議なもので、なにこの完成度!とちょっと混乱しました。いきなり映像がすごいとは言ったものの、観終わって最初に思ったのは「映画における“自然”ってなによ?」ってこと。まずこの映像美をつくりだしたのは自然が持つ色合いやざわめき、昼下がりのぬくもりや月明かりのつめたさ、といった「自然の美しさ」で、そのひとつひとつをこれしかない!というカットで見せ、聞かせる。たぶんその場にいるより心地よさを味わえたと思います。映画の自然は時に「自然」を上回る!えー!

そして、もうひとつの「自然」が「こども」で、ぼくがこの映画に一番驚いたのはそこ。はっきり言ってアナとイサベルが「演技」をしているようにはまったく見えなかった。村で上映された映画「フランケンシュタイン」を食い入るように観ているあの「瞳」はどう見ても本気だし、ふたりの「会話」と「行動」が大人の考えたものだなんて到底思えない。こども映画によくある「やらされてる感」がこれっぽっちもなくて、イサベルの言う「映画の中のことはぜんぶウソ」ってのがどうなのかすらわからなくなりました。映画って台詞とか状況とか、なにかしら不自然な描写があると、演技が下手に見えたり、物語が陳腐に思えたり、たしかな違和感を感じるじゃないですか。どのみちウソなのに違和感があるんです。それってなんだかヘンじゃないですか。そこにきてこの映画は自然、ものすごく自然。その自然さを醸し出しているのがこどもたちで、火を飛び越えてるイサベルが止まるとこなんて戦慄すら覚えます。脱走兵との物語の顛末もコワイくらいリアル。戦争を背景にすると、どうしてもファンタジックにしなければ描けない「こども」をここまで自然に描いたのは、もうすごすぎる。

空想と現実で揺れ動いた末に、かすかな希望を見いだしたアナ。そのささやきに奇跡を感じました。(★★★★★)