いつかあなた方を「誰も守ってくれない」

テレビ映画らしいあざといつくりのこの映画、「おもしろい」と思うところと「つまらない」と思うところがなんと同じでありました。人間てやつは一線を越えてしまった者に対して、普段は「常識」だとか「良心」が働いてブレーキがかかるようなことを平気でする。しかもおもしろおかしくたのしんで。それがネット上ではさらに悪質、陰湿なものとなり、様々なところに飛び火してエラいことになるわけでして、、、ってそんなことに答えはない。人間だもの。

被害者の家族も加害者の家族も降り掛かる不幸は同じ、という問題提起だが、ほんとうにそれだけで終わってしまっている。「この映画を観て何かを考えてほしい」とかなんとか言うんだろうが、暴走したネット社会を単なる「悪」として描いているわりには最後は人間愛に満ちあふれたとこに落ち着かせている。

加害者宅の狭苦しい感じなどに手ぶれカメラを用いたり、「世間」を盾に狂ったように仕事をこなすマスコミから逃げるカーチェイスなど、ところどころ見応えがあるにはある。けど、それが全体として見るとあまり必要だったとは思えない。ただ単に「興味を引く」ということだけに集中しているように見えた。ひとは他人の不幸が大好物なのだ。

たとえばこの映画のあらすじをきいて考えることと、映画を観て考えることになにか違いはあるのか?だらだらと大衆の興味を引く不幸だけを描き、その是非を観客に問うだけでは2時間も使わなくて済むネットの記事、ニュースの報道となんら変わりない。そんなものはドラマと呼べないはず。なので、この映画の言う「生きていくしかない」には諦観と絶望しか味わえない。唯一、おもしろかったのは新聞記者の佐々木蔵之介の心理描写なんだけど、これは端折りすぎていて、ただマスコミへの悪意が鼻に付くだけ。

大衆の心の闇を描いたのはおもしろいが、このやり方で大衆の心を食い物にするのもまた闇だ。(★★)