なによりも説得力がある「インビクタス/負けざる者たち」

くそぅ!やられた!またイーストウッドに泣かされた!なんだってこんなに良い映画ばかりつくるんだ!人間ってこんなにすばらしいの!?これほど心動かされるの!?信じられない!ちょっと尋常じゃないほど感動したよ!泣けて泣けてどうしようもなかった!!エンドロールで泣き止もうと必死になったの初めてだよ!すごいやだねあれ!!

というわけで、見事に今年の初泣き映画となった本作ですが、鑑賞前は正直いってそれほど期待してなかったんです。というか「マンデラ…?ああ、なんか知ってるかも。主演がモーガン・フリーマン?ふーん…」てな感じに思ってて、キャストもストーリーも鉄板でなんか「かたいなあ」なんて思ってました。だから去年の2作品『チェンジリング』『グラン・トリノ』ほどの深い感動はないんだろうなあ、と。ところがですね、いくらスポーツものに滅法よわいとはいえ、この映画が一番心にどーん!ときました。いえ、きてしまいましたね。

おもしろいのはやっぱり映画が「27年の獄中生活を終えたところ」ではじまるところ。頭のなかでは実話ではあるし、まあ設定と言えば設定だよなあ、なんて生意気なこと思っちゃったんだけど、「ぼくなら、わたしなら」という範疇ではとてもじゃないけど考えられない「27年」。その事実を最初から「背景」として描くことで、モーガン・フリーマン演じるネルソン・マンデラ大統領の言葉、行動にとてつもない「重み」が生まれたように思う。そして、その「重み」に屈しない彼の姿にマット・デイモンが主将をつとめるラグビーチーム、警備のSPや官邸の職員たち。すべてのひとたちが抱く「敬意」に心から頷いてしまう。

さらにこの映画のすばらしいとこは決してマンデラひとりをヒーローとして祭り上げるわけじゃなく、あのとき、あの場にいた、あの国にいた、4300万人の人々を同じ「希望」に酔いしれる者として描いていたところ。南アフリカから遠く離れた日本に住むぼく、あの瞬間から十余年経った今を生きるぼくでさえ、感謝の気持ちを共有させてもらえたような気がしました。『現代は混迷している。でも、こんな「ひととき」もあったんだ。』イーストウッド監督のそんな祈りにも似た声、そしてそれに呼応する者たち、様々な想いがつくりあげた傑作。ああ、音楽もよかったよ!思い出すとあつくなる!

ただひとり讃えられるとするなら、やっぱりクリント・イーストウッド監督。いつまでもぼくらの心を撃ち抜いてください。(★★★★)