戦闘民族サイヤ人「ハート・ロッカー」

ぼくら世代の男子なら、まず読んでいて当然の漫画のひとつに『ドラゴンボール』がある。地球育ちの心やさしいサイヤ人孫悟空が並み居る悪党、異星人たちをその肉体で屠り去っていく物語だ。もちろん7っ集めると願いが叶うフシギな玉ドラゴンボールを集めるお話でもあるけれど、彼が「オラ、もっとつえー奴と戦いてえ」と言う以上はその目的を果たしまくるお話なのだ。

サイヤ人の血」なるものがそう言わせているのは、漫画青年期に登場する孫悟空最大最高の好敵手となる「生まれつき誇り高きMハゲ王子」の行動を見れば明らか。どんな強敵を目の前にしても、はじめは勝つ気満々の余裕綽々。我こそがその道のナンバーワンであると自負して止まない男だ。しかし、ある難敵に圧倒的な力の差を発見してしまったとき、彼はどうやら怯えた。が、そんなときでさえすぐにその「血」が差を埋めるための方法を模索し、難なく思いつくこととなる。伝説の超サイヤ人になれば勝てる、と。そのために取った行動とは「死の淵をさまよい、復活するとパワーアップする」というサイヤ人の特性を活かしたものだった。

ハート・ロッカー』の冒頭には「戦争の高揚感には中毒性がある」「戦争は麻薬だ」といった一文が入る。映画の主人公ジェームスはまさにそんな「ヤク」をキメた戦争狂で、これまで800個を超える爆弾を処理してきたエキスパートである。配線一本が命取りになる危険な作業に、この上ないスリルを感じている男だ。当然ながら時にその無鉄砲さは仲間との衝突を招き、戦場でのそれは問題になるはずなんだけど、戦場というのは本当に色んなやつがいるらしく、彼は周りの人々に認められもするし、罵られもする。とにかくその荒廃した風景に彼はとてもよく似合ってしまうのだ。

爆弾処理という生と死の狭間に身を置くジェームスだが、そんな彼にある変化が訪れる。軍の駐留地でボカしやピンぼけのあやしいDVDを売り、小金を稼ぐ少年ベッカムとの出会いだ。「かわいいガキだな!」とじゃれあう姿に戦争狂に思えたジェームスを支える人間性を垣間見たぼくは、ラストまでの筋書きをぼんやりと浮かべてしまった。そして、映画はそれにほぼ完璧に答えてくれる。見ず知らずの少年が人間爆弾と化した姿に苦悩し、無意味な行動に走る。軍服姿でシャワーを浴びてもその葛藤は洗い流せない。これらの描写を経てあまりに必然すぎるラストを迎える映画にぼくは心からの拍手を贈った。防爆服なるスーツも実にサイヤ人然としていて、ひたすらにかっこいい。いやオスカー受賞も納得!

「死」の味を覚えた人間。『ドラゴンボール』と同様に男心をくすぐる傑作でありました。(★★★★)