その男、凶暴に尽きる「アウトレイジ」

ぼくが何でヤクザのひとたちを「恐いなあ」と思うかって言うと、「弱さ」を見せないからなんですよね。どんな危機的状況に立たされてもテメーコノヤローと凄んでくる。普通のひとだったら「マズい、ヤバい」と思うであろう瞬間にも「筋」だとか「けじめ」だとか「示し」だとかを強引に貫き通してくる。驚くのは目上のひとに謝るときでさえ、表情には「申し訳なさ」より「怒り」がにじみ出てて、申し訳なさそうにしてると逆に疑わしい。そんなコワイひとたちとは実生活では絶対に関わり合いになりたくないワケですが、この映画に登場する方々、ぼくは誰ひとりとして「恐いなあ」とは思いませんでした。

全員悪人、という触れ込みで、もちろんそれらしく見せようとしてるのはわかります。わかるんですけど、ぼくと同じ目線、つまり「恐いなあ」と思う奴が映画のなかに一人もいないんで、いくら怒鳴られても矛先がコチラに向いてないから恐いと思えないんですよ。じゃあ、それが問題かって言うとそんなことはなくて、二言目にはテメーバカヤローコノヤローと言うひとたちを鑑賞というよりは観察といった感じのイイ距離感で観ていられる。全力で笑わせようとはしてこないけど、どこか笑ってもいいんだよっていう余白が常にある。そういった演出があるから娯楽映画足りえてる。とても不思議な感覚で楽しめる映画でした。

ヤクザーの抗争、内輪揉め、言っちゃえば覇権争いみたいなのが物語なので、自ずと「暴力」を振るう場面が見せ場になってくるワケですが、本作はそこんとこも実にユニーク。歯医者さんにある歯をキュイーンするやつでアッー!したり、ラーメン屋で菜箸を耳にアッー!したり、ヤクザーの話だからやっぱり「指つめろ」的な展開にもなるんですが、指つめるのが一番マシかもと思えるくらい、「痛おかしい」とでも言うべき手口ばかりで、しかも拳銃やドスを使うよりか、要らぬ親近感がわいてしまうという大変すばらしいものでありました。

紆余曲折を経てバイオレンス映画にカムバックした北野監督ですが(よく知らないけど)、生々しい表現にうるさいこの御時世、まして暴力なんてものがほとんどのひとにとって非日常である日本において、バイオレンス映画を撮ってくれとせがまれるのは映画監督として「貧乏くじ」と言う他ないポジションで、そんなことを思っている輩に向かって「大きなお世話だよバカヤロー」と凄んでみせるのもやっぱり大物なんだな、と。あのシーンにはドキッとしました。

まあ、いろいろ書いちゃったけど、おっきな感想は・・・
椎名桔平のワルぶりが素敵」
加瀬亮に色眼鏡が大正解」
國村隼の作り物顔がでる映画にハズレなし」
「たけしのパンチは痛そう」
くらいなもんです。とにかく観ていて面白かった。いや、面白かったぞバカヤロー。(★★★★)