脳内ニューワールド「インセプション」

エクセレントな素晴らし映画がやってきた。鑑賞後に味わわされる言葉にならない興奮と正体不明の非現実感。一体なんだったんだこの映画は?面白すぎてどこが面白かったのかわからない。このパラドックス。この浮遊感。今現在今日この日から『インセプション』という言葉は映画界において重要な意味を持つ。

ダークナイト』の超絶大ヒットにより、クリストファー・ノーラン監督は映画監督として世界一の「自由」=「撮りたい映画なんでも撮っていいよ」というお偉いさん方からのオールオッケーサインをもらったであろうコトは想像に難しくない(違かったら赤面///)。だが、「次作がどんな映画なのか?」この想像は難しい。答えがわからないから何を言っても果てしない空想に終わってしまう。そこへくると、本作予告編の「この世で最も価値のあるモノ、それはアイデア」との言葉には奇妙なほど合点がいく。

その「アイデア」を他人に「インセプション(植え付ける)」するというお話で、確かにその発想は面白いし、色んな想像が膨らみ興味を惹かれる。しかし、本作が圧倒的に優れているのは人間の深層心理といったテーマを舞台にしつつ、アクション、サスペンス、ラブストーリーといった娯楽要素をこれでもか!とブチ込んでいるところ。148分中、一瞬もこれらの娯楽要素が無くならない。

この多重構造を可能にしたのは物語の舞台である「夢の中の夢の中の夢」に施した「前層の夢の干渉を受ける」という「設計」だ。そのアイデアが骨子となり、すべての娯楽要素を受け入れている。『インセプション』とは「映画」という娯楽がノーラン監督自身に植え付けた「夢」の映像化であり、それがアイデアひとつで多くの観客に受け入れられたという宇宙規模の一大事件である。

今この瞬間、ノーラン監督の頭の中ではどんな思考実験が行われているのだろう?と思うと、ぼくは夢見心地になってしまう。スーパー大傑作。(★★★★★)