アリス・イン・ウエスタンランド『トゥルー・グリット』

西部劇、銃撃戦、主人公が映画初主演、初めて尽くしのコーエン兄弟最新作。ジョン・ウェイン主演映画『勇気ある追跡』のリメイク作品ではあるけれど、個人的にはいつものコーエン風味に新たな要素が加わったことで、西部劇よろしくコーエン兄弟が新しいステージを開拓していった作品だと感じました。

コーエン兄弟の映画において「よそ者」という存在は印象的だと思う。コーエン兄弟自身がユダヤ人であることとの関係はわからないけれど、代表作『ファーゴ』では誘拐の依頼を受けた「よそ者」による犯行が物語を転がしていくし、『バートン・フィンク』『レディ・キラーズ』では舞台となる場所へ「よそ者」の主人公が赴くことで物語が始まる。『ビッグ・リボウスキ』『未来は今』になると事件の当事者に「誤って選ばれた者」というまた違った感じになるけれど、キャラクター性でいえば『バーバー』は疎外感を味わっている男が主人公で『ノーカントリー』なんて「よそ者」であることが物語のガイドまでしている。

ミラーズ・クロッシング』『オー・ブラザー!』もカタギじゃない人々を主役にしていて、『赤ちゃん泥棒』『ディボース・ショウ』も「子供が欲しい夫婦」「夫婦の離婚を扱う弁護士」というどこか蚊帳の外にいる人々をクローズアップしている。ここまで言っといてアレなんだけど、最近になって『ブラッド・シンプル』だけ見ていないことに気が付きました・・・。未見作品は『ミラーズ・クロッシング』だけだと思っていたら、『ミラーズ〜』は見ていて『ブラッド〜』だけ未見なのでありました。デビュー作なのに・・・。来月に予定している『シリアスマン』鑑賞前には絶対に見たいと思っておりますです。はい。

閑話休題にして『トゥルー・グリット』は弱冠14歳の少女が危険地帯へといざ突き進む、まさしく「よそ者」の物語であったけれど、西部劇の持つ非現実性や時折はさまれる情緒的な映像などから、コーエン兄弟のなかでジャンル分けするならば初めて「ファンタジー」になると思う*1。銃撃戦というもっともらしいアクションシーンがあるというもうひとつの初めての点では、物語を急激に停滞させるルースター(asジェフ・ブリッジス)とラビーフ(asマット・デイモン)による「的当て合戦」の場面が、来たるアクションシーンへとコーエン兄弟が試金石を投じているようでとても可笑しかった。

映画初主演という最大の初ものである主人公マティ(asヘイリー・スタインフェルド)はオリジナル版とは打って変わってすこぶる魅力的に描かれている。その魅力には歯に衣着せぬ物言いがまずあったけれど、もっといえば「自分の手で復讐しないと気が済まない」「おとぎ話のような展開など信じない」といった俗に言う「厄介な子供」であることが魅力であって、映画はそんな彼女が「物語を信じる勇気=TRUE GRIT」を勝ち取っていく姿を描いていたように思う。その物語がコーエン兄弟の作品において一番のポピュラリティを得たという結果*2は何よりうれしい出来事だし、そして、それこそが物語の持つ力の証明といえるんじゃないかな、なんてことを思いました。

*1:パンフレットにてこの作品は『不思議の国のアリス』のようでもあると弟のイーサンが言及。

*2:兄ジョエルには予想外のヒットだったそうな。もっと自信持って!http://eiga.com/news/20110214/13/