やもめ暮らしの鼠『夢売るふたり』

夢売るふたり』感想。

ボクが何で映画見てるかっていうと「ヘンなひと」が見たいからなんですよね。ヘンなひとのヘンな行動/言葉、そして、その様子に「う、うわぁ……」とか「えぇぇ???」とか思いたい。それも、ジーッと見つめながら。まじまじと。執拗に。

西川美和監督は寝てるときに見た夢の話を『蛇イチゴ』(2002)、『ゆれる』(2006)と映画にしてきて、そこで得た自分への評価のしこりを『ディア・ドクター』(2009)と映画にしてきました。そんな西川監督の新作『夢売るふたり』は、寝ているときに見た“夢”の話ではなく、監督オリジナルの創作モノで、目標/願望としての“夢”を持った人々のお話。

この物語にはイイことなんて無かったと思います。誰一人として“夢”を叶えていないからです。カモられたほうにとって「いい経験」になんかなるハズがない。ねずみ算式に負の感情が積み重なって遂にはお互いを見失った里子(as松たか子)と貫也(as阿部サダヲ)にも、波止場のカモメが悲しげに鳴き囁くのみです。なんだか、演歌みたいだなーって思いましたね。板前とその妻の数奇な人生。演歌のことはよくわかんないですけど、見る人の価値観を照らし合わせることで見えてくる物語が、広く普遍的な歌のようでイイなと思いましたね。ラストシーン、朧げな視線の先にはきっと何もなくて、観客と目を合わせずに「あなたがそう思うんならそうなんじゃない」と言っているようで底意地の悪さが素晴らしいです。幸/不幸の切り替え見事な松たか子の演技と西川美和監督の女性観が薄ら寒い傑作でありました。おわり。