見る映画に迷った子羊『羊たちの沈黙』

羊たちの沈黙』(1991)感想。

ポール・トーマス・アンダーソン監督の最新作『ザ・マスター』が見たい今日この頃なんですが、残念ながら地元栃木での上映はなく、仕方ないからさいたまへ出向こうにもその予定がなかなか立たず、どうにもこうにもしていられないので『ブギーナイツ』(1997)をコメンタリー再生で見ていたらば、ポール・トーマス・アンダーソン監督が「ジョナサン・デミ監督に影響を受けた。普通に見ていても気付かないだろうけど、彼の真似をしてるんだ。」なんてことを言っていたので、へぇ〜と思ってこの機会にジョナサン・デミ監督作品を見てみようと思い立ったのでした。んで、なんでかわかんないけど3回も見ちゃったよ。最高です。

クラリス(asジョディ・フォスター)とレクター(asアンソニー・ホプキンス)という刺激的なキャラクター。二人のする丁々発止の探り合いが面白いわけですが、檻を挟んでの会話はまるで「懺悔」をしているようなんですね。クラリスなんかレクターの受け売りを同僚に話すようになっちゃうし。犯人逮捕の手柄を求めるクラリスや彼女の上司クロフォード(asスコット・グレン)はもちろんのこと、犯人であるバッファロー・ビル(asテッド・レヴィン)でさえも、レクターにとっては「迷える子羊」でしかなかったんですね。冒頭のランニングシーンで映る看板に「agony(苦悶)」「hurt(苦痛)」「pain(痛み)」「Love it(それらを愛せ)」とありましたが、その下にもうひとつ、黒く汚れた看板には「pride」と書かれていました。つまり、この映画は、〈それらを愛せないと七つの大罪である「pride(傲慢)」に繋がるから注意せーよbyレクター博士〉という内容だったように思います。議員は娘の誘拐のことで立場気にしまくりで、そのことを「母乳で育てたのか?」っていう質問と「そのドレスいいね」などという皮肉を交えてレクターが指摘する場面は映画のゲスい白眉でありました。あそこで言う“ドレス”には、皮膚を剥ぎとる犯人の手口にかかってるのと、娘の誘拐を宣伝の場として活用したい思惑を見抜いていることへの二つの皮肉があるんですねぇ。たぶん。
というわけで、クライマックスに暗視スコープ視点があるもんだから、今年見た『ゼロ・ダーク・サーティ』(2012)とこじつけて自分感想を錬ろうとかも思ったんですが、暗視視点は議員の娘をさらう場面にも1回だけあるし、主人公が若手女性捜査官っつっても微妙に違うし、ホントのところなんて全然わかんないしで、顔面力のある映像と魔力ある謎解きストーリーに身を任せる方向で最高に楽しい映画でありました。おわり。