『色彩を持たない多崎つくると、彼の巡礼の年』新生活シーズンなので読書感想

色彩を持たない多崎つくると、彼の巡礼の年』感想。

主人公・多崎つくる、36歳独身男性、鉄道会社勤務。彼には二歳歳上の恋人・沙羅がいた。彼女との四回目のデートで交わした会話から、多崎つくるは自分のなかに大学二年生のときに負った心の傷が思いのほか生々しく残っていることに気付く。多崎つくるを入れると五人の仲良しグループだった同い年の友人に大学二年のある日突然「もうお前とは会えない」と三行半をつきつけられたことだ。名古屋で育った多崎つくるだったが、大学進学をきっかけに上京。残りの四人は全員名古屋で進学。一人だけ上京をしたということが別れの原因じゃない。まとまった休みがあるときには名古屋へ帰郷し、高校時代と同じように五人で過ごした。赤松慶(あかまつけい 通称アカ)、青海悦夫(おうみよしお 通称アオ)の男二人と、白根柚木(しらねゆずき 通称シロ)、黒埜恵理(くろのえり 通称クロ)の女二人。四人の苗字には「色」が入っており自ずと呼び名もそうなった。色のない多崎つくるはただ「つくる」と呼ばれた。名前に色がないから絶交されたのか。もちろん違う。彼らは何故多崎つくるに別れを告げたのか。沙羅は、その理由を確かめてほしいと多崎つくるに懇願する。あなたとこれからも付き合っていきたいから過去にあったその問題を見つめ直してほしい、と言う。そう言われて多崎つくるは16年振りに四人に会いに行くことを決める。色彩を持たない多崎つくると、彼の巡礼の年

四人の他にも灰田、緑川といった色の名前を持った人物が登場する。この色がどういった意味を持っているとか、沙羅の名前は沙羅双樹の略で、沙羅双樹花言葉から仏教と絡めた考察なんかを見掛けました。村上春樹の過去作品と絡めて楽しむことなどは出来ませんでしたが、とっても面白かったです。名前のなかに色を持たない多崎つくるですが、彼の名前には「作」という字をあらかじめ入れたいと思う父の想いがありました。

読書がW杯クラス(四年に一度)のボクにとってですが、小説って言葉で色付けをする物語のことですよね。風景であったり心情であったり。でも、それが本当の意味で可視化されることは絶対にない。広がるのは目の前ではなく頭の中でだけです。鉄道会社に勤める多崎つくるは製図に携わった駅の壁にこっそりと自分の名前を残していました。きっと、多崎つくるとは、小説もしくは文学そのものの象徴なんだと思います。まっさらで何色にも属さない彼に言葉で色付けをし、物語を与えていく。震災後の日本を生きていくうえで文学といった文化が今一度その足もとを確かめる。不確かな過去を見つめ直したうえで、今を生きる。そんなようなことを思いました。とはいえ、何をどう見つめ直したらいいのかわからないのが現時点のボクの人生です。そんなことより明日の仕事めんどくさい。お金がない。お金がほしい。頭の中のサイクルはいつもこんな感じ。ボクの巡礼の年はまだ先みたい。物語の終わりと同じ水曜日に読み終えられた偶然が何だか得した気持ちにさせてくれました。おわり。