何の変哲もない贈り物『LIFE!』

『LIFE!』感想。

予告編の歌の雰囲気から何やらネイチャードキュメンタリー的 なものを感じたのとそれ自体を不必要に何度も目撃してしまったので若干構えて見てしまったんですけれど、ハイすいませんでしたっ。心にスーッと入ってくる感動が心地いい傑作でありましたよ。ベン・スティラー監督。『トロピック・サンダー/史上最低の作戦』(2008)とコレなら最高じゃないですか!『ズーランダー』(2001)を見ていないのであとで必ず見ましょうね。

主人公ウォルター・ミティ(asベン・スティラー)は出会い系サイトでシェリル(asクリステン・ウィグ)という女性のページを開いている。彼女のページへいいねボタン的な“ウィンク”を押そうか押すまいか迷うウォルター。ウィンクしたいしたくない。いやしたいんだけど指が動かない。 この躊躇にまずやられます。「一歩踏み出す勇気」と言葉にするのは簡単ですが、この1クリックから一体どんな物語が始まるのか?空想癖のあるウォルターにも観客にもまったく想像がつかない。しかし、つかないからこそ躊躇にドラマ性が宿るんですね。せっかく押してはみたもののなにがしエラーでBoo。なんだよこれ…ってところから映画は始まります。

机の後ろに下がるウォルター、社内でシェリルを壁チラするウォルター、お皿いっぱいのケーキを持ち歩き“浮く”ウォルター。彼のピントは気が付くとすぐにズレてしまう。始まる空想活劇。観客にはスターに映り周囲の人間にはぼんやりした人に見えてしまう。はじめのうちはこうした日向/日影といった境界線がくっきりとあるんですね。

しかし、それは次第に消えていきます。消えていくといっても存在自体がなくなったわけではなくて徐々に“見えなくなっていく”感じです。区別のつかなくなった画面はルールがまったくわからなくなります。歌、ヘリ、火山、スケボー、二人の民族、オレンジのケーキ、そして幽霊ネコ。ショーン(asショーン・ペン)の目にはあの景色がどんな風に映ったのか?−−−「美しいものは注目を嫌う」。

現実/空想という映像表現から「現実+空想」へとスムーズに移行してみせる。「現実+空想」それは「映画」の持つ本来の平凡な姿です。この映像感覚のスマートさが実に素晴らしい。エンドロールのスクロール感も相まって近代的な美しさを感じましたね。映画を見終わって真っ先に思い出したのが『レミーのおいしいレストラン』(2007)のセリフです。「平凡なものこそ最も意味深い」。ラスト、二人がゆっくりとこちら側へ手をつなぎながら歩いてくる。その姿が次第に眩しさと共に溶け込んでいく。“主人公”から“普通の人”に戻っていく。ハイ。良い映画を見ると「映画そのもの」をもっと好きになる現象が起きますが、この1本はそのなかでも最高のひとつでありました。映画冥利に尽きる傑作!大好物!おわり