あなたのキズを数えましょう『her/世界でひとつの彼女』

her/世界でひとつの彼女』感想。

利便性が突き詰められ、簡素な雰囲気をまとった世界が映画の舞台。人工知能オペレーティングシステムOS1が担うのは、人々の気持ちを読み取り、それを尊重し、望まれるがまま行動を共にすること。主人公セオドア(asホアキン・フェニックス)はひょんなことからこのサービスを始める。音声は男性・女性のどちらがよろしいですか?少しの間を置いて女性を選ぶセオドア。かすれ声の女性の声が起動。OSサマンサ(cvスカーレット・ヨハンソン)との生活がスタートする。

思っていることを「全自動」で汲み取ってもらうことは、言い換えれば「自然体でいられる」ということだ。気にすることは何もない。笑うことも怒ることも我慢しなくていい。ありのままの姿見せるのよ。それは、こと恋愛において、誰しもにとって好条件なんじゃないかと思う。気を遣う相手と恋愛関係にはならないハズ。劇中、サマンサと話していないときのセオドアは躊躇してばかりだ。ブラインドデートの相手の女性(asオリヴィア・ワイルド)が真剣な交際を求めてきたとき、OSの代理ボランティアで訪れたイザベラ(asポーシャ・ダブルデイ)の震えを見たとき。相手が予想だにしない行動をするとセオドアはもう何もできなくなる。けれど、それは何もセオドアが臆病すぎるのではなくて、デート相手やイザベラが身勝手だったとも言える。つまり違いをすり合わせるきっかけが無かっただけだ。

人はみんな違う。当たり前だ。趣味が「映画」で共通していても、今日見たい映画はみんな違う。それでも、人は誰かと繋がることができる。どんなに違っていても、その違いを“受け入れる”ことができる。

セオドアは結果的にサマンサともキャサリン(asルーニー・マーラ)とも結ばれなかったけれど、互いの歩幅が合う「一瞬」はきっとあったはずだし、それはいつまでもセオドアの中に残るはず。セオドアが受け入れさえすればいいのだ。サマンサもまた息づかいを真似したりして人間に取り入る(って言ったら言葉が悪いかもだけど)ようなことをしている。代理サービスを通じて肉体とはどんなものなのかを知ろうともする。人の気持ちを読み取るあまり人間になろうとしたサマンサだったけれど、最後には自分は人間とは“違う”ことを受け入れた。「同じことが人間にもできるから」と、彼女なりに学んでのことだと思う。

何かを共にすることは素敵なこと。それと同じくらい違いを受け入れ苦楽を共にすることは素晴らしい。OSとのひとときを終えたセオドアとエイミー(asエイミー・アダムス)がたどり着いた朝もやのあとにはきっと新しい一日が訪れるはず。ハイ。ものすごく好きな映画でありました。ここにきて何だけど逆に受け入れられなかった一例として登場するルーニー・マーラのイヤ顔最高!おわり