どちらもベスト10入りで入れ食いイグレシア監督2作『刺さった男』&『スガラムルディの魔女』

アレックス・デ・ラ・イグレシア監督の映画を2本鑑賞。

『刺さった男』感想。

「桃李もの言わざれども下自ずから蹊を成す」とは言いますが、キツい状況にある人のほとんどは「いつの日かきっと……」と、人生が好転するのをジッと待っていて、それでもその“いつの日か”が訪れる気配はなく、だからといって諦めることも出来ないものだと思います。何もせずに上手く話が転がっていく、なんてことは普通は無いわけです。

その「普通」を飛び越えて「頭に鉄筋が刺さり身動きが取れなくなった」ことで人生が急展開していく一人の男とその家族の物語です。刺さった男ロベルト(ホセ・モタ)の妻ルイサ(サルマ・ハエック)が、もうとにかくカッコイイです。自分には夫を救う術はないけれど、周囲の雑音はもちろん夫自身の言葉に驚くなかで、家族として、妻として、自分はどうすべきなのか?を芯にジッと我慢している。主要登場人物が同じ場所から動けずにいればいるほど、代わりにメディアやイメージが転がり回って展開されていくシステム。耐え忍んでいた妻がラストに起こすアクションに心の中で拍手喝采を送りました。ナメんなよ!って感じ。庶民派映画の傑作でありました。


『スガラムルディの魔女』感想。

大道芸人に扮した男たちと巻き込まれた男たちがいつの間にか魔女の住む村に迷い込み、あれよあれよと大騒動が巻き起こる物語。とてつもなく最高でした!

強盗をしながら男たちの言う「養育費も裁判もウンザリだ!」の言葉に漂うごくごく庶民的な悲哀。指がもげてしまったことによる痛みと驚きと恐怖によって引き起こされる“笑うしかない”感情。ひとつの事象にいろんな感情をごちゃ混ぜにして見せてくれるところがイイです。

そのなかで、もっとも“混ざっていた”場面は、やはり「お母さん」が現れるシーンでしょう。「ヴィレンドルフのヴィーナス」をモチーフとしたデカいおっ母さんが現れ狂喜乱舞する一同。ある者は偉大な母に畏怖し、叫び狂い、ほうべをたれる。ある者は恐怖のあまり怯え、混乱し、逃げ惑う。そして、発展する母娘のタイマンバトル!こんなにも「感情の爆発」がスクリーンに乗っかってる映画は久しぶりに見ました!

とはいえ、なんだか終わってみれば「婿入り」をしにいくお話だったように思えました。新しい家族も生まれて、いろいろあったみたいだけど、これから何があってもみんなで頑張れよな!なんて気持ちを抱かされる不思議な幕切れです。というわけで、初めてイグレシア監督作品を劇場鑑賞することができて良かったです。ハイ、存分に楽しみました!(おわり)