POVホラーの音『死霊高校』

『死霊高校』感想。

ちかごろ続編大作映画で満たされすぎて、なんか小品的なやつ見たいなーって欲求が強くなってたところにこの映画がクリーンヒットでございます。そういえば、今年はまだホラー成分をマトモに摂取していなかったです。見たくないけど見てみたい。驚くのはイヤだけどその先が見たい。そんな想いにかき立てられ、見終えると充足感のある良作ホラーでありました。



縮み上がるチアリーダーにロマンスがありあまる。



この映画でもっとも効果的に使われていたのは「音」です。夜の校舎に忍び込み、イヤ〜な展開がいよいよスタートしてからのファーストコンタクトとして「ロッカーがひとりでに閉まる」出来事が映され、そのことに登場人物は気付かないんですが、これ、どうして気付かないのかというと、「見えていなかった」からではなく、その登場人物が自分で閉めたロッカーの音にかき消されて「聞こえなかった」から気付けないんですよね。いわゆる「志村うしろー!」的な死角ホラーは指をさすことで反応できますが、この消えてしまった音について、登場人物に一体どう説明すればいいのか。この映画は「音」で観客を案内してくれます。

「このために来たんでしょ?」とセットを壊すチアリーダーの姉ちゃんによる音は雰囲気を一変させ、上の階からきこえるけたたましい足音は身を凍らせてくれる。軋む縄の音にいたっては、その事態を見ずとも想起させてくれる。さまざまな場面で音が効果的に用いられ、いざ姿を現すとなれば、影からぬぅーっと忍び寄ったり、いつの間にか首元に縄が垂れ下がっていたり、“音もなく”画面に現れる。音を出す/出さないのリズムで見事にコントロールされてしまいます。

それほどまでに音が力を発揮したのには、POV映画の持つ特徴も一役買っています。POV映画は常に「前方」を映しているから「死角」がある。そこへ、幽霊的な「脅威」が加わることにより「いま映っている画面以外に何かがいるんじゃないか」という意識が醸成される。その状態にあるとき効果的に「音」を用いられると、見る者の心のチャンネルが切り替わり、映像への興味・関心をかき立てられる。何をいまさらという感じですが、本当にこの映画はそれが上手くて、あらためてPOVホラーは楽しいなぁと思いました。

ラストも素晴らしい。このテのホラー映画は最後の最後に真相が!的な構成になるものが多いですが、黒幕が明かされ、この映画の「筋書き」が立ち現れるフィナーレは実に鮮やかでした。「死角と音」というPOVホラーにおける「舞台装置」がふんだんに用いられ、また、この映画自体がひとつの舞台劇であったという一本筋がラストに通る。最高。非常に良くつくりこまれた映画でありました。面白かったです!