小さな小さな恋のメロディ『ONCE ダブリンの街角で』

未曾有の大震災が起こる中、久しぶりに映画を見ました。少しだけ揺れているテレビ台を見ていたら、いつの間にか地震に慣れてしまってる自分に気づかされたりして、ばっちり集中しての鑑賞とはいきませんでしたが、ボクはお国のために「考え」を巡らせる立場ではないので、少しでも間違った行動を起こさないよう努めるだけ。そして、ひとりでも多くの人の無事を祈るのみ。それから、この映画からもらったあたたかい気持ちを忘れずに少しでもくよくよせず過ごしていくつもりです。

ストリートライブを行う男の前に花売りの女性が現れる。音楽を通じて心を通わせるふたりの物語。全編ホームビデオのような撮影で、それはたとえばダルデンヌ兄弟のような洗練されたものではないけれど、ひとつ、彼女の初登場シーンはほんとうに素晴らしい。昼間のうちは道行くひとの耳に届くようポピュラーな歌を歌うという主人公の男だが、夜になると人通りを気にせずオリジナルソングを歌う。

その姿にカメラがゆっくりと寄る。まるで歌声の邪魔をせぬようそっと静かに。夜の街に彼の歌声が響く。バストショットくらいに寄ったところですっと引くカメラ。そこに、まるではじめからその場に居たかのように彼女の姿が映り込む。冒頭数分の何気ないシーンだが、どこか音楽がめぐり合わせたかのようにも思えるこの場面がボクは大好きなのだ。彼女はあなたの歌好きよと積極的に話をかける。そんな彼女におろおろとたじろぐ男にあれよあれよと感情移入させられ、ほろ苦くもあたたかいふたりの物語を見届ける。

音楽に精通していないボクには、知らない曲に即興でハモってみせたり、異なる楽器で音を合わせていく様子が本当に輝いて見える。人と人とが何かをキッカケにつながっていくという魅力もさることながら、その素晴らしさを映画で表現してくれていることが、今、物語に逃げ込むことしかできないボクにはとにかく嬉しい出来事なのであった。うん。終わります。