普通じゃない!『127時間』

ダニー・ボイル監督最新作。ハイ、昨日の『SUPER 8』より先に見ていたんですが、鑑賞後にとてもモヤモヤしてしまい、でもそれをどう説明すればいいのかわからない、という病気を患っておりました。アウトドア大好き青年が手を岩に挟まれて遭難。それだけの話で一本の映画に仕上げるというチャレンジングな試みが成されていました。それゆえに傑作だと思うし、と同時に好きになれなかったのはそのためなんじゃないかな、と思った作品。

言っちゃえばこの映画は『ソウシリーズ』で捕まった人の姿を延々と映した映画というカンジで、あのシリーズってギャーとか叫びながらその焦りやピンチ度合いを増すために目まぐるしい映像になると思うんですが、本作の場合、そこんところを景気のいい音楽やありとあらゆる映像タッチなどを用いて軽快なリズムを生み出しています。その雄弁さに安心して身を任せていられる序盤はかなり楽しいです。

「岩に挟まれて動けない」という限定的なシチュエーションのため、一歩間違えれば一辺倒になりがちなところを「主人公が眠るたびに回想シーンを入れる」などの工夫で突破しています。とてもお上手です。テンポ的に『レクイエム・フォー・ドリーム』に似てるなと思っていたら、パンフレットにてボイル監督は「映画『レスラー』を見て感銘を受けた。自分も一人の俳優だけで映画をつくってみたい」との発言をしていてびっくり。はじめからそーゆー工夫を凝らす名目があっての作品だったのですね。

で、それはイイことだとは思うんですが、その上手さゆえにすっかり主人公に感情移入させられたボクにはあんな形の「決断」は絶対に納得いかないんですよ。あれで一気に「他人事」に変わってしまった。だって、描いた物語が「一人では生きていけないことをさとる」ってそんな大げさな言い草はしていませんけど、とにかく、万人が「うんうん」って思えるものだと思うんですよ。それなのにあの状況から脱した方法が「ネバアアアアギブアアアアアアアップッッッ!」にも程がある離れ業すぎるんです。実話だからってのはわかります。常人が超人的に描かれるアメリカっぽさもわかります。だからこそ、あろうことか本人から「あの体験が、自然が、ボクを変えてくれたんだ」みたいなことを言われた日には何だか居心地の悪い気分になってしまうんですよね…。うー優しくないのだねえ自分。