グッド・バッド・ウィザード『悪魔を見た』

キム・ジウン監督作品。婚約者を惨殺された刑事スヒョン(asイ・ビョンホン)が、その犯人である連続殺人鬼ギョンチョル(asチェ・ミンシク)を執拗に追い回す。体内にGPSを仕掛け、ギョンチョルが犯行に及ぶたびに駆け付けては痛めつける。ギョンチョルは、いつ、どこで、何をやってもすんでのところでスヒョンに御用となってしまうのだ。犯行→御用→逃がす→犯行→御用→逃がす、という「復讐」を何度も繰り返すスヒョンだが、惨殺された妻と同じ苦しみを与えることこそが「完全なる復讐」なのだという。果たしてソレは何なのか?という物語。

「韓国」に「復讐」とくればパク・チャヌク監督だけども、パク監督は本作を見てこう指摘したらしい。「ギョンチョルがGPS入りのカプセルを飲み込むことで、スヒョンや観客が一心同体化するという側面がある。」と。なるほどー、と思った。どういうことかって、ギョンチョルとは、ちくそー!お巡りのニオイがしやがる!もう女子校生送迎バスの運転手ができない!じゃあ最後にこのコをヤッちまおう!といったメチャクチャな犯行動機を持ちえる悪人。また、悪人特有の人心掌握術で女性を支配していくなどをする「純粋悪」なのだけど、その「純粋悪」を徹底的に「コケ」にする、という妙なカタルシスを観客とスヒョンは共有することになるというわけだ。

体内にGPSを埋め込むという単純且つ効果的な方法によって、奴さんが犯行に及ぶたびにいいところになったら颯爽と登場し、後ろからゴツンと制裁を加えることができ、しかも、もう殺してくれよ!とか言い出したところで「次はもっと残酷にするぞ・・・」と脅かしてその場を去るというカッコつけ付き。その後、道端に捨てられたギョンチョルはアイツは一体なんなんだ?クソ!バカにしやがって!と慌てふためくこととなる。怖いもの知らずがビビり散らす様子に思わず笑みがこぼれてしまう。

・・・が、後輩が口をスベらせるというクソくだらない要因からGPSの存在がバレて力関係が逆転してからは、ギョンチョルはどこだ!?と慌てて聞き込みに行ったりする無様なスヒョンが映ったりして、それまで期待させられていた「はじめて味わう自分自身の危機に純粋悪はどう対応し、また、そのことに善人はどう対峙するのか?」といった面白い展開がオジャンになってしまい、また、最終的には「やられたからやり返したが、結局のところ善人だったのでやりきれなかった」との至ってフツーな場所にたどり着いてしまったように思う。純粋悪をコケにするという快楽にスヒョンとボクは紛れもなく自分自身に「悪魔を見ていた」のに、だ。劇中で『ダークナイト』のことを意識していることがハッキリと示され、スヒョンが暗闇に乗じて裁きを下す様子はモロにバットマンなのだけど、そこまでやるならば物語としての「先」を描くべきだったと思う。おわり。