残暑っぽくごった煮『イリュージョニスト』と『未来を生きる君たちへ』と『インシディアス』

イリュージョニスト

ベルヴィル・ランデブー』のシルヴァン・ショメ監督作品。いつ見たっけ・・・というくらい時間が経ってしまいましたが、かなり好きな作品でした。カットを割ってしまうのが勿体無く感じるほどの映像に見惚れていると、それと同じように街並みや主人公の手品師タチシェフの手品に感動する少女アリスが現れて、ますます映画にのめり込みます。映像美とタチシェフのアリスへの想いとの両方に「儚さ」があって、その儚さに魔法の瞬間みたいな何かを垣間見た気がしました。漢字って面白くって「人」が「夢」を見ることは「儚い」と読むんですね。生き別れた娘の姿をアリスに重ねるタチシェフだったけれど、最後にはその想いが一方通行であることを認める。何だか嫁いでいく娘を見送ることができずに酒場で人目も憚らずに泣いているお父さんの背中みたいな作品でぐっときっぱなしでありました。


『未来を生きる君たちへ』

『アフター・ウェディング』のスサンネ・ビア監督作品。原題はデンマーク語『Haevnen(ヘフネン)』で復讐という意味。正直、何度も見てきたようなイヤになる起承転結の物語でした。映画序盤に引用されるデンマーク童話作家アンデルセンの『小夜啼鳥(ナイチンゲール)』という作品の言葉。当然、未読であり内容もググった程度で知った気になっているボクですが、美しい鳴き声を持つ鳥が、死の床に臥した皇帝へと「赦し」「癒し」を与えるその物語の言葉を引用したということは、この映画/物語を語ることへの意思表明だったように思いました。フィクションである物語ならば、現実への反発として登場人物に赦し/癒しを与えることは簡単なことだと思いますが、ビア監督の作品がそういった物語であることはまずなく、登場人物たちには過酷な選択を、観客にはむうと考えさせることを要求します。たぶん、この映画の物語で赦し/癒しを感じた人々が欧米諸国にはたくさんいるんじゃないかなぁと思います。物語は人を救う。今回はその視線が「子供」にも注がれていることから、ラストシーンの小鳥のさえずりにはビア監督の物語ることへの「決意」を感じたのでありました。でも、パンフレットにあるインタビューによれば、いつかはコメディやスリラーもやりたいとのこと。うん、いいと思う。もう十分色んなものをしょいこんだよ。ビア監督のコメディ、見たいですねぇ。


インシディアス

『ソウ』のジェームズ・ワン監督作品。製作陣は『パラノーマル・アクティビティ』のひとたち。タイトルになっている『INSIDIOUS』のとおり狡猾で陰険で油断のならない作品でした。「ホラー映画」という言葉で一緒くたにしてしまうとオバケもモンスターも悪魔も人間も死後の世界もぜーんぶまとまってしまいますが、そのカオス状態を縫っていくような野心を感じました。とにかく映画の印象が変わる変わる。ひとつに収まりたくないような感じ。それでいて人物の視点どおりにカメラを動かしながら観客に「うわー見たくないなー」と思わせておき、ここぞというときにダダンと音でビビらせるやり口は実にオーソドックス。しかし、基本を守りつつも多くのホラー映画に「ツッコミどころ」があることを嫌うかのごとく、登場人物の行動と言動には相当の気遣いが感じられました。画的に笑いに転じてしまうことはあっても、登場人物の内面を茶化すようなスキは無かったと思います。そんな純粋な創作意欲が功を奏したのか、ボクの前列で見ていた女子高生4人は、ちょっとでもヤバ気なカンジになると2人1組のペアで身を寄せ合ったり、手を八の字にして視界を覆ったりしながらコワイところでキチンと飛び跳ねるという素晴らしい楽しみ方をしておられましたね。はい。その様子も込みでボクにはとても眼福の作品でありました。